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【1年が経ちました】 のんびり家3F 君塚

2012年09月10日 | のんびり家::のんびり家 3F

のんびり家3階で皆さんと一緒にお仕事をさせて頂くようになってから既に1年が経ちました。本当にあっと言う間でしたが、振り返ってみると確かに色々な出来事があったことが思い出されます。1年という一つの節目を迎え、介護職のプロとしての自覚を今まで以上にしっかり持ち、これからも入居者さんとの関わりの中で多くの事を学ばせて頂きながら成長できればと思います。
さて、今回はのんびり家3階の入居者さんのHさんについてお話ししたいと思います。Hさんは毎朝誰よりも早く起床されて、皆さんのご飯と味噌汁を作ってくれる「のんびり家3階のお母さん」的存在です。とても早起きが好きな方で、朝の4時台に居間に来られて夜勤のスタッフを驚かせることもしばしばあります。Hさんが就寝されるのはだいたい23時頃ですので、のんびり家3階の入居者さんの中では最も睡眠時間の短い方となります。そんなHさんに毎朝早起きをされて眠くないのか聞いたことがあるのですが、やはり「眠いよ」とのことでした。
また、私が夜勤をしていたある夜のことです。Hさんは深夜の1時を指している目覚まし時計を手に持ち「これ、あってる?」と私に聞いてきました。その時計が正確な時間を示していることを伝えると「あー、これあってるんだあ。」と時計をまじまじと見つめながら二人で笑い合いました。Hさんは、起床する時間のはずなのに時計は1時を指していたため、時計が故障しているのではないかと思われたのでした。実は、この時間の感覚を正確に認識できないというのは認知症の症状の一つであり見当識障害と呼ばれています。この症状は放っておくと生活のリズムを狂わせ体調を悪化させる原因になるため軽く考えてはいけないのですが、夜の1時を指した時計を手に持ち二人で笑い合っていると、これも個性の一つとして受け止め、笑い話で収まっているうちはそれほど深刻に悩むことでもないのではないかと、そんな考えも一方では湧いてきました。
Hさんはごく普通の優しい女性で、入居者さんに対しても優しく話し掛け、色々教えて下さいます。そしてスタッフである私に対しても、片付けをしていると「ご飯一緒に食べよう。」とか、夜勤明けの私に「ご飯(お米)は食べないの?」とか(夜勤明けは食欲無くおかずのみ口にしてます)声を掛けて下さり、Hさんがどれだけ周囲を良く見ているか、その観察力には驚かされます。ある時私が台所に立ち一緒に料理を作っていると、突然Hさんが「私、邪魔じゃあない?」と聞いてきたのです。私はその瞬間「驚いた」というよりは「背筋が凍る思いがした」という方が正確かもしれません。私達スタッフの仕事は、入居者さんに気付かれることなく入居者さん主体の生活(環境)を作り出すことです。にもかかわらず、入居者さんに自分達が邪魔になっていないかと思わせるということは、スタッフの立ち居振る舞いがそれだけ未熟だということです。一方ではそれだけ入居者さんに気配りされるのだからしっかりとした信頼関係が築けている証拠という見方もできなくはありません。しかし、自分の仕事の不手際が入居者さんに伝わっていることは確かですし、何より自分の身のこなしが入居者さんの生活に完全に溶け込めていないことになります。
私はこの1年間入居者さんを「観る」ことばかりに気を取られ、「観られる」ことにはほとんど意識がいきませんでしたが、Hさんの言葉は、その誤りを私に気付かせてくれたのでした。
「認知症の方は何もできない、わからない」という誤った見方があるのは悲しい現実ですが、認知症の方は失われた能力が大きいほど周囲の人々に様々な教えや学びの機会を与えて下さいます。その教えや学びに気付くかそうでないかは、私達一人ひとりの心掛けであると思うのです。

07:45 | Posted by admin