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【大晦日の夜】  きみさんち 松林

2019年05月28日 | きみさんち

昨年の大晦日。
日勤の勤務を終え、帰り支度をしていると、テレビに映っている紅白歌合戦を入居者の皆さんがご覧になっていました。しかし、そんな和やかな風景を尻目に、一人玄関で煙草をふかしている入居者さんが目に入りました。
煙草を吸い終えるとリビングに戻ってきて、手持ち無沙汰にラックから歌の本を取り出して、紅白歌合戦の皆さんが居るテーブルから少し離れた椅子に座って、歌本を広げて、一人歌い始めました。
「上野発の夜行列車降りた時から~、青森駅は雪の中~」
胸が締め付けられて、泣きそうになりました。
数日前に、その方の息子さんと電話で話したのですが、「今年はお正月に顔を出す事が出来ないので、宜しくお願いします。蟹を送りますので、皆さんで食べて下さい。お母さんをお願いします」と。
ご本人は、本日が大晦日だという事も、息子さんが送ってくれた蟹を食べた事も、息子さんがお正月に来ない事も分かってはおりませんが、それらの事実を理解して寂しさ紛れに歌を歌っているのだとしたらと想像してしまい、急に侘しさが込み上げてしまったのです。
歌っている歌詞も寂しさを増長させるに充分でした。
「凍えそうな鴎みつめ泣いていました、ああ~、津軽海峡冬景色~」
私がスタッフルームで目頭を熱くしていると、今度はさっきとはま逆の歌が聞こえてきました。
「ぼくらはみんな生きている~、生きているから歌うんだ~」
そして、どんどんと声量が上がって行きます。
「手のひらを太陽に~すかしてみれば~」
そして、今度は、紅白歌合戦を観ていたある方が、その歌声に乗り始めました。
すると、もう一人、もう一人と、最後には、全員で「みんなみんな~生きているんだ友達なんだ~」と、大合唱になっていました。
私の目頭には、さっきのものとは違う種類の涙が溢れていました。
人間というものの本当の逞しさを垣間見た様な気がしたのです。
戦争などを体験されたり、子育てが大変だったり、仕事がキツかったり、病気に罹ったり、人との別れを悲しんだり、、、想像を遥かに超える苦労をされてこられたと思いますが、大きな声を出して明るく歌っている皆さんの表情は、これからはもっと楽しんで生きていくぞとでも言っている様な、とても輝かしいものでした。
2018年の大晦日という日に、そんな瞬間に立ち会う事が出来て、一年間の疲れが吹き飛ぶのを感じました。
そんな瞬間に出会えた時、この仕事を選んで良かったと思えるのです。
そして、その後、きみさんちの紅白歌合戦は夜更けまで続いたそうです。

16:51 | Posted by kimisanchi