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【芽吹きのとき】 きみさんち 志寒

2022年03月31日 | きみさんち

「え~、できないよぉ」とTさんは仰います。しかし、台所まで来ていただき、実際にごぼうと包丁を手にとってもらうと、自然に包丁の背で皮をこそげ始めました。身体で覚えた動作は認知症が進行しても覚えていることが多いと言われています。料理はその代表的なものです。ですが、やり通せるか自信が無かったり、作業を頭の中で構成することが難しかったり、調理をスタートする踏ん切りがつかなかったりと、尻込みして動けなくなってしまうこともしばしば。そんな時にはどんな言葉を掛けるよりも、食材を手に取り、具体的な手がかりを感じてもらうのが良いきっかけになることが多いようです。
ファイル 605-1.jpg特に、ごぼうは皮をこそげた後ささがきにする、じゃが芋は洗うと皮をむき芽を取る、キュウリは小口切りにして塩で揉むなど、食材によって特有のお馴染みの動作が呼び起こされることがあります。そうして呼び起こされた動作の流れは止まることなく、ごぼうのささがきなら金平ごぼうに、キュウリの塩もみなら酢の物にと、少しのヒントと手助けで完成までたどり着いたときの、入居者さんの晴れ晴れとした表情にこちらも笑顔を誘われます。
ちょっとしたきっかけを手がかりに、次々と巧みな手作業が引き出されていく。それはまるで春先の芽生えから枝葉や花が生まれていく、そんな瞬間です。

09:04 | Posted by kimisanchi