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【お互い様】 お寺のよこ 光岡

2014年02月10日 | お寺のよこ

私がお寺のよこに入職して、1年と少し経過してからのことですから、かれこれ7年以上前の話になります。
夜勤で入居者さんの各居室を見回りしていると、女性入居者のSさんが中々寝付けないご様子のようでした。Sさんは普段から饒舌な方ではなく、自分の思いを明確な言葉として発することもお得意ではありませんでしたが、不安そうなご様子であるということは分かりました。
私はSさんと少し話がしたくなって、Sさんに声を掛けました。本来ならSさんが不安に思われていることを私が聞き出していくということが大切なのかもしれませんが、その時は自分が仕事上悩んでいることを聞いてもらうことが主となっていました。
Sさんは一頻り私の話を聞いて下さいました。Sさんが私の話を傾聴して下さったということになりますね。途中でアドバイスを頂けるということもありませんでしたが、Sさんに話を聞いて頂いただけで、私は悩んでいたことが少し抜けていく感覚が分かりましたので、退室することにしました。
その際にずっと話を聞いて頂いたSさんにお礼を言いたくて「Sさん。話を聞いてくれて有難う」とお礼を言うとSさんはとても素敵な笑顔を浮かべられ、その後朝までぐっすりとお休みになられました。
以前「日本人は、殆どの人が自分が困っている時に他者に助けを求めることに対してためらいを覚えるが、他者が困っている時はためらいなく助けたいという思いがある」という趣旨の話を聞いたことがあります。認知症状態にある方も一緒なのでしょうSさんも、私の悩みを聞いて、私からお礼を言われたことで、人の役に立ちたいというSさんの潜在的なニーズが満たされたからとても素敵な笑顔を浮かべられたのかもしれません。
昨年お寺のよこでは数名の方がお亡くなりになりました。思い返してみればその方達も濃淡の差はあれど、「人の役に立ちたい」という思いを持っておられ、それは他の入居者さんやご家族、スタッフや近隣の方、見学者や実習生の方達にも具体的な行動として示して頂いたことが多数あったかと思います。
入居者さんが持っておられる「人の役に立ちたい」「困っている人を助けたい」という思いを自分はどれだけイメージすることが出来ているのだろうか。ややもすれば、入居者さんは庇護されるべき対象であると規定して、入居者さんの前述した思いや力を奪う行為をしていないか。お亡くなりになった方のことを思い出すとそう自分に問い返しま
す。
昨年お亡くなりになったTさんが良く言われていた言葉があります。「そんなの一々礼を言う事じゃないわよ。お互い様よ」。お互い様という意味を深く考え、その対象を広げていくことが出来れば何か素敵なことが生まれそうな気がします。
尚、7年前に私の話を聞いて下さったSさんは今もお元気で、毎日素敵な笑顔と、時折不満そうな表情を変わらず浮かべておられます。

08:54 | Posted by admin