先日、ご近所に住んでいるSさんに、亡くなられたお姉さんの遺品を整理したいので、手伝ってほしいと頼まれました。お姉さんは享年85歳だったそうです。長唄三味線をされていたとの事で着物がたくさんありました。旅行が好きだった方なのか、地方のおみやげがたくさんのガラスケースに山になって飾られてあります。古い宝くじがいろんな所から出てきます。テレビを見ながらのメモ書きなのか、料理のレシピや書き留められた言葉が広告の裏に書かれています。僕自身故人とは、まったく面識もありませんでしたが、たくさんの遺品を見ていると、知り合いだったかのように思えてしまいます。
後日、85年の人生分の遺品が多い事を友人に話したら、「谷野の荷物の量は小学生なみだよね。」と、しみじみ言われました。本当にその通りですが、何かを集める趣味もないし…。それと、今のところに引っ越す前に、女優の沢村貞子さんが書かれた本で、ご本人が80歳を過ぎてから、身軽になって海でも見ながら晩年をおくりたいと、持ち家や家財道具を処分して、ご主人と湘南のマンションに移り住んでからのエッセイ本だと思いますが。そんな影響を受けるような本だったのか内容も忘れてしまったのですが、それを読んでから荷物を減らしたのだと思います。
赤帽さんに、これだけですか、まだまだ入りますよと言われるくらいの荷物しか引越し先には持って行きませんでした。
Sさんは、以前に呉服屋のご主人をしていたので、着物の染め方・織り方の説明を交えながら、これ当時は高かったんだよと言いながらも、故人の着物を、てきぱきとゴミ袋に入れていきます。勿体無いですよと、余計なことを言うと、もう1年以上たったから…、形見分けも終わったし、こんなにたくさんの荷物を置いておいたら、子供たちが大変だからと。僕は荷物を整理しながら、これをいただけませんかと、帯を1枚と、帯紐を2本いただきました。Sさんは、にっこりして「いいですよ。」と。名前も知らない方の遺品をもらって、家に帰りタンスが無いので、押し入れの奥にしまいました。この綺麗な帯と帯紐が、僕の遺品になったら、どう解釈されるのだろうと思いながら。