log

【秋です。】 お寺のよこ 冨所

2010年11月05日 | お寺のよこ

ついこないだまで「地球の重力がどうかしちゃったのか」と思うほどの、まとわりつくような蒸し暑さだったのが嘘のように、すっかり秋の気配の今日この頃です。この文章が載る頃には、私にとってお寺のよこでの4度目の冬を迎えていると思います。
年末年始の準備という事で、先日、法人の有志で行っている獅子舞研究会の三回目の研修に参加してきました。今年から動画を使った実演研修を行うという事で、今年の正月に、私がお寺のよこで舞った獅子舞の様子を撮影したものを、資料として持参し、研修の冒頭に流しました。私のぎこちない獅子が、居眠りしている入居者さんの前でしきりに頭を揺り動かし、屋内を歩いている入居者さんにぶつかって(獅子舞は視界がすこぶる悪いのです。)、自分が獅子である事をすっかり忘れて入居者さんに謝った後、スタッフに付き添われて、獅子にお賽銭を渡しにきた入居者さんの姿。9月末にご逝去された、Tさんでした。
Tさんは私がお寺のよこに入って数ヶ月経った頃、お寺のよこに来られました。Tさんは視力がだいぶ衰えられていたのですが、巧みな包丁さばきで、目にも止まらぬスピードで、透けて見えるような薄切りを切られたり、カボチャを美味しく煮るコツを教えて下さったりと、それまで生活してこられた力を、私たちに沢山見せてくれました。私の大雑把な料理の味見をお願いすると、指でOKサインを作り、「上等です。」とお世辞で答えてくださったり…。
目がよく見えないことによる不安感からか、外出する事には消極的でした。そんなTさんに何とか外に出てもらえたらと、Tさんの大好きなパンやお菓子を買いに行く事を勧めてみると、その直後は乗り気になるのですが、そこから「ちょっと用事があって…」、「ちょっと具合が悪くて…」などと色々理由をつけて、断られる事もしばしばあり、スタッフを悩ませると同時に、やはりそれまで生活してきた力を感じる瞬間で、微笑ましくもありました。そんなTさんが何とか外出された際には、表の空気や日差しの心地良さを繰り返し訴えられ、素直に「良かったなぁ」と感じる瞬間でした。
食事を残しがちのTさんに、戦時中の食糧難の話を振り、「そうだったわねぇ…」と当時に思いを馳せるようにつぶやいた数秒後に、大きなゲップをされ、思わず私の腰がへなへなと砕けてしまったなんて事もありました。
お寺のよこの入居者の中では最高齢であり、様々な疾患と向き合いながら、最後まで生き抜かれたTさん。多分色々至らない部分のあった私ですが、文句は私がそちらに行った時に聞かせて貰いますので、甘い物でも食べながら、お寺のよこのみんなを見守っていて下さいね。

10:07 | Posted by admin