はじめて働いた介護施設でSさんの担当をさせていただいたのは、Sさんが99歳の時でした。年をとると個性がより強くなるといわれますが、本当に頑固な方でした。
生活習慣の改善…。Sさんは海苔の佃煮は3日くらいで食べきってしまうし、柿の種はあればあるだけ食べてしまうし、カルピスが薄いと「こんなの、飲めねーよ。」と、はぎれのいい口調で言い放ちます。僕の力量では、駄目だと言っても聞き入れてくださるわけもなく、このじいさんはしょっぱいものを必要以上に食べたからってこんなに長生きしている、大丈夫まだまだ長生きするはずだと自分に言い聞かせて、常に逃げ腰でした。
しばらくして、Sさんは足がむくむからと足元に布団を何段にも重ねて眠っていました。上げすぎだったのですが、崩れないように紐で束ねて差し上げたのですが…、それだけの事なのですが、そのことがあってからSさんは、こんないいかげんな自分に、なにかと相談をして下さるようになりました。
100歳をこえた頃には歩行も不安定になりますが、そんなお年で杖を使えと言われても、いつもどこかに置いてきぼりです。奥様を腸閉塞で亡くされたからか、101歳になっても下剤の調節はご自分で考え、カレンダーにしるしを付けてされていました。
Sさんの担当を2年近くさせていただき、その施設を夜勤明けで辞める朝に、Sさんの顔を見に行くと「あんたじゃなくちゃ、だめなんだよ。」と、最上級の気の利いたねぎらいの言葉をかけてくださいました。
あなたの5年以上も前の、さりげない一言におどらされて、今日もなんとか働いています。お元気でしょうか。