「あたし、おかしくなっちゃって、何がなんだかわからなくなっちゃったの」そう言って落ち込まれていたA さん。夕方になるとこのセリフを口にすることが多いようです。
Aさんは夕食作りをしている他の入居者さんの調理をなんとなく眺めていましたが、ふと思い立ったのか「私も何か手伝おうか?」と。
盛り付けをし始めると表情は一変。炒め物の量は均等に、全ての具が満遍なくいきわたるよう、しかも、彩りよくなるように具の配置まで考慮して、集中して作業しています。
「できたわー!さぁ食べよう」と、先ほどまでの落ち込みは消えてしまいました。
もしかしたら、子どもたちがけんかにならぬよう、平等におかずを盛り付けていたころを思い出したのかもしれません。
役割を持って、他人の役に立つことで自信を取り戻したのかもしれませんし、ただ単純に気がまぎれただけなのかもしれませんですが、みなのために料理を盛り付けるという、たったそれだけのことが、心の平安と生きる力を引き出したように思えるのです。
私は、入居者さんたちが料理をしたり、洗濯物をたたんだり、スーパーで値札をじっと見ている瞬間が大好きです。美しいとまで感じます。
当たり前の生活を営む。共に生きる。
そのことが、苦しみを癒し、生きる力を与えてくれるのでしょう。
生活の価値、日々の尊さを、皆さんに教わっています。