「ねえ。銭湯に行けるようにしてよ」
私が入居者さんと昼食の買い物から帰って来ると、Kさんがそのように私に話し掛けてきました。何のことかと思ったら、Kさんが、「お寺のよこの近くの銭湯に行ってみたい」とスタッフの一人に話したら、銭湯に行く時は紙製のパンツを穿くか、もしくはパッドを着けた方が良いのではと提案されたとのこと。
Kさんは、ご入居されて1年半以上が経過しますが、ご入居当初は紙製のパンツを穿かれていました。ずっとそれで過ごされていたのですが、ご本人が思うところがあり「紙のパンツは嫌だ。これからは普通のパンツがいい」と仰り、1ヶ月程前からトランクスに変更されていました。時折間に合わないこともある為、スタッフは銭湯に行くのであれば万が一のことを考慮して紙製のパンツを穿いた方が良いのではとKさんに伝えたとのことでした(数日前にそのスタッフからKさんが銭湯に行きたいと希望されていると報告を受けた時、私も、銭湯に行くのであれば紙製のパンツを穿いた方が良いとスタッフにアドバイスをしていました)。
「紙のパンツではなく、今自分が穿いているパンツで銭湯に行けるようにしてよ」ということが、冒頭に記したKさんの想いなのでした。
私もKさんとその場で話し合い、間に合わないことがまま見られることから、銭湯へは紙製のパンツを穿いていった方が安心であると伝えましたが、Kさんは「大丈夫だよ。失敗なんてしないよ」と仰り頑として首を縦に振りません。それではと私から妥協案として、「明日の午後に銭湯に行きましょう。それまでに失敗することが無ければトランクスで行く、失敗をしてしまったら紙製のパンツで行くというのはどうですか」と提案をしました。すると、この案にKさんは乗って下さいました。「僕頑張るから」という言葉とともに。
翌日、Kさんは先述したスタッフとともにトランクスを穿いて銭湯に行くことが出来ました。銭湯ではゆっくりとお湯に浸かっておられたとのことで、ご自分が希望したスタイルで銭湯に行くことが出来たことで、とても満足されたのではないでしょうか。
私たちの仕事の楽しさ、嬉しさの一端はここにあると思います。入居者さんが明確な希望を仰る。それを叶えるには困難もつきまとうが、入居者さんの力を信じて掛けてみる。その思いに入居者さんが応えて下さりご自分の希望を叶えていく。
スタッフが入居者さんの想いを実現すべく、その可能性を信じるサポートが出来た時に、自分
の仕事への喜びや、人を支えるということの意味が感じられるのだと思います。
Kさん、今回は多くのことを学ばせて頂きました。有難うございました。
スタッフの元谷さん。粘り強く頑張りましたね。これからもよろしく。