この二年間、コロナ禍のため、ご入居者さんに買い物を控えていただいていました。その代わりに、じっくりとスーパーのチラシを見ながらあれこれと頭を悩ませ、ご自分で買い物内容を決める『買い物会議』を丁寧に行っています。チラシの特売品からも季節を感じておられ「らっきょうが出てるよ」「枇杷がきれいだね」と、お話も盛り上がります。
その買い物会議中、Tさんが「じゃあ行かなきゃ」「バスのところに」と慌て始めました。どうやら、帰らなきゃいけないという気持ちに切り替わったようです。
おそらく『買い物=お金を使う=私はお金がない=ここにいられない』とつながってしまったのかもしれません。不安そうに立ち上がったTさん。敢えて誤解であることを説得しようとせず、様子を見ていると外に出られました。
外に出たところでどう行っていいものやら戸惑っておられましたが、神社の境内にある枇杷が見事に実をつけているのに気が付いたようです。枇杷の方に歩み寄り、鮮やかなたわわな実を眺めています。そしてなにやら境内に手を伸ばしはじめました。枇杷を拾っているのかと思いきや、手には白い花がついたどくだみが。
そして摘んだどくだみを自分の杖に飾っていきます。
しばらく後、帰らなきゃという気持ちは、『手が臭い』という気持ちにすり替わり、手の匂いを嗅いで「臭い!」と笑顔になられたTさん。少し外に居たいという気持ちになられたのか、ベンチでしばし日光浴。その気持ちが続いたまま、マスクをつけて買い物に行かれました。
外に出ることの良い影響を、改めて感じました。