きみさんちの庭のビワの木、ここ数年は伐採のタイミングが悪かったのか実をつけませんでしたが、今年はたわわに実を付けました。部屋の窓からビワが少しずつ色づくのを 楽しみに眺めておられたTさんも収穫に満足なご様子。そういえば、Tさんが入居されてしっかりとした実が成ったのは初めてですので、感慨もひとしおなのでしょう。隣に座った介護福祉士の専門学校実習生に、実を見せながら「かわいいんだよ~」と握ったその実を大事そうに見せておられます。そして、いくつかあった実を一緒に召し上がりました。
実習生は台湾の方でビワは台湾にもあるとのことですが、ベトナム人のランさんは見たこ とが無かったと。ビワひとつでお国柄にも話がはずみます。
このきみさんちのビワの木は、実が成ればご近所の方が「このビワはいい品種だよ」と井戸端会議のきっかけにもなりましたし、葉をシップに使うので分けて下さいとお菓子と交換しに来られた方もおられました。今年は障がいをお持ちの方の団体に、ビワの葉で染め物を作るためにとお分けしましたし、この葉でビワの葉茶を作って運営推進会議で飲んでいただいたこともありました。どうも、この木には人をつなげる力があるようです。
今でも懐かしく思い出すのはこのビワをこよなく愛していたKさん。ビワが成るとご自身で食べるのももちろん、散歩中、ご近所の子どもたちにも分けていたとのこと。しかも、「盗ったんじゃない、もらったんだよってお母さんに見せてね」と一言を添えていたそうです。“ビワのおばあちゃん”と子どもたちの話題になっていたのを知ったのはご近所情報から。どおりでいつの間にか実が無くなるはずです。Kさんに「食べちゃった?」とたずねると「頭の白いカラスが食べてんだよ」と舌を出していましたが、まさか子どもたちにあげていたとは私たち職員も知りませんでした。そのKさんもお亡くなりになりましたが、時間を超えて、ビワの木が思い出をつなげてくれています。
いま、練馬区は緑被率(植物に覆われている面積)が下がり、長年の一位の座から転落しました。この練馬区の緑被率の高さは農地が多いからだけではなく、その半数近くは一般のお宅のお庭であるとのこと。このビワの木も、みどりの練馬を守る大切な一員です。いつまでも、豊かな葉を茂らせてほしいと願います。