ある日、ある事業所に向かっているときの光景です。
買い物にでも行くのでしょうか、その事業所の職員が二人の入居者さんと歩いていました。職員が真ん中、両手で手をつなぎ、三人が並んで、それぞれが笑顔です。高齢の女性が二人、若い女性が一人。歳も違えば、血もつながってそうでもない。はたから見れば、どんな関係がわかりづらい三人組ですが、まるでいつもそうして生活しているか のように、握っている手を揺らしながら歩いています。
もちろん、職員にとっては業務の一環で、気を張って常に入居者さんの安全確保や状態観察を行っているのでしょう。しかし、職員自身も入居者さんも笑顔で、私はそのあまりに自然なふるまいに、しばらく目を奪われていました。
今年の一月に、共生社会の実現を推進するための認知症基本法が施行されました。そこには「新しい認知症観」がうたわれていますが、はたして新しい認知症観とはなんでしょうか?いわく“なにもできなくなるわけではない”、“能力のある存在である”、“希望をもって生きることができる”など、どれも本当は人間にとって当たり前のことです。いま問い直されているのは、認知症や認知症状態にある人ではなく私たちの方です。必要なのは一定以上で定型の認知機能を前提にしない、そんな人間観なのでしょう。
その新しい人間観が育まれたとき。この三人のような不思議な関係性。そんな風景がありふれたものになっていくのではないのでしょうか。