今回は、映画の紹介をしたいと思います。
名優アンソニー・ホプキンスが、認知症の父親役を演じるヒューマンドラマ『ファーザー』(2021年日本公開)。そのタイトルとジャケットからイメージされるのは、ハートフルな親子愛をテーマにした映画と思われましたが思い切り裏切られまして、認知症の凄まじさを思い知らされたのでした。
ロンドンで一人暮らしをしているアンソニー(役名もアンソニーのアンソニー・ホプキンス)は、認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアン(オリビア・コールマン)が手配した介護人を拒否してしまいます。
そんな折、アンソニーはアンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられます。
しかし、アンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張されます。
見知らぬ男性は、何故、ここが自分とアンの家だと主張するのか?まさか財産を奪う気なのか?現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーはある真実にたどり着く、というお話ですが、これがなんと、下手なホラー映画よりも数倍恐ろしい映画でした。
何が怖いかというと、認知症をテーマにした映画は他にもありますが、基本的に家族とか介護する側から見た映画になっている事が多いですが、この作品は、認知症に侵された老人側の視点から描いているのです。
だもんだから、時間軸が飛びまくり、出て来る人達の統一性が無く、観ているこちらも混乱させられ、認知症という事が感覚で分からされるのです。
自分の信じるものが次の瞬間には崩れていって、次第に自分が何処に居るのか、自分が誰なのかも分からなくなっていくのです。
人間誰しもにやってくる認知力の衰えを一人称視点で、かつサスペンス風に描き出す事で、観客を翻弄しまくる事に成功した物凄い映画『ファーザー』。
人も時間も場所も全ての概念が消し飛んだ感覚が怖すぎて、二度と見たくないと思えるから、おススメしたい。
余談ですが、この映画の監督さんは、これがデビュー作だそうです。